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体外受精で妊娠が確認できたあと「体外受精だと染色体異常が多いのでは」という言葉を検索で見つけてしまい、眠れなくなっていませんか。
先にお伝えします。体外受精や顕微授精という治療そのものが21トリソミー(ダウン症)などの染色体異常を増やすという確かな根拠は、現時点では報告されていません。
このページでは「体外受精と染色体異常の関係」「一番大きく関わっている要因」「妊娠後に赤ちゃんの状態を知る方法」の順に整理します。不確かな情報で消耗してしまう前に事実を一つずつ確認していきましょう。
体外受精で妊娠された方の多くが一度はこの不安に行き当たります。
この不安が生まれやすい理由の一つは「体外受精だから」と「治療を受ける年齢だから」が検索結果の中で混ざってしまっていることにあります。
体外受精を受ける方の年齢層と染色体異常の頻度が少しずつ上がる年齢層は重なります。そのため「体外受精で生まれた赤ちゃん」を集めて見ると数字がやや高く見えることがあります。しかしそれは治療の手技によるものとは限りません。
日本の研究班(AMED/苛原稔・徳島大学教授を代表とする研究)の報告でも、生殖補助医療で生まれた児について「全体として先天異常の発生率などには自然妊娠と比べて大きな差はないことがすでに知られています」と述べられています。
なお海外の大規模な研究では、生殖補助医療で生まれた児の先天異常がわずかに高いとする報告もあります。ただしその背景にはご夫婦の年齢や不妊の原因そのものが関わっている可能性が指摘されており、「治療の手技が原因」と結論づけられているわけではありません。
これまでの治療で流産や着床しない周期を経験された方もいらっしゃるかもしれません。
日本産科婦人科学会は妊娠12週未満の早期流産についてこう説明しています。流産した組織の染色体を調べると「約80%に異常を認めた」と報告されています。この場合は「精子と卵子から受精卵(胚)ができる段階で、流産する運命がすでに決まっていた」ことになるとしています。
つまりあのときの流産は、あなたが何かをした・しなかったせいで起きたものではありません。受精の段階ですでに決まっていたことが多いのです。
こうした染色体の数の過不足を胚移植の前に調べる検査がPGT-A(着床前胚染色体異数性検査)です。日本産科婦人科学会の細則では対象を「反復する体外受精・胚移植の不成功の既往がある不妊症のご夫婦」「反復する流死産の既往がある不育症のご夫婦」「女性が高年齢の不妊症のご夫婦」としており、学会の承認を受けた施設で実施されます。
ART(生殖補助医療。体外受精や顕微授精などの治療の総称)と染色体異常の関係は国内外で長く検証されてきました。
2022年に発表された総説では「これらの技術が21トリソミーのような遺伝的疾患のリスクを高めるという証拠は、現時点では存在しない」と述べられています。体外受精での染色体数の異常の頻度は自然妊娠と同程度です。異常は卵子・精子の状態やご夫婦の年齢に関連して起こるもので、手技そのものによるものではないとされています。
また体外受精・顕微授精で妊娠した1,496人と自然妊娠の1,396人の出生前染色体検査を比較した2022年の研究では、新たに生じた染色体異常の割合は6.75%と6.16%で統計的な差は見られなかったと報告されています。35歳以上・35歳未満に分けても同様に差は見られませんでした。
よく聞かれること:「治療を続けた自分の判断が、赤ちゃんに影響していませんか」
そう考えてしまいますよね。でも治療を選んだことが染色体異常の原因になるという根拠は報告されていません。その選択があったからこそ今赤ちゃんがここにいます。
染色体の数の過不足は、卵子や精子がつくられるときの「減数分裂」という細胞分裂で染色体の分かれ方にずれが生じることで起こります。
卵子は生まれる前につくられ、体と一緒に年齢を重ねていきます。理化学研究所の研究では年齢を重ねた卵母細胞で「コヒーシン」という染色体をつなぎ留める因子が減少し、染色体が本来より早く分かれてしまうことが報告されています。
ただし「卵子の老化」という一言ですべてが説明できるわけではありません。この分野の代表的な総説でも加齢に伴う異数性の増加は単一の要因では説明できず、複数の要素が関わり合っていると述べられています。
年齢別の頻度については「年齢別にダウン症の確率と注意点を解説」、高齢出産全般の考え方については「高齢出産で出生前診断は必要?」をご覧ください。
「PGT-Aを受けていないから何も確認できていない」と感じている方もいらっしゃるかもしれません。
まず知っておいていただきたいのはPGT-Aは対象となる方が限られた検査であり、受けていないことが不足ではないということです。
PGT-Aを受けた方についても、日本産科婦人科学会の参考資料には次のような記載があります。胚盤胞から5〜10個の細胞を採って調べるため「結果が胚全体の状態を正確に反映していない可能性がある」とされています。また「流産の原因は様々な要因があり PGT-Aですべて解決するできるものではありません」とも書かれています。
つまりPGT-Aを受けた方も受けていない方も、妊娠後に赤ちゃんの状態をどう見ていくかはあらためて考える余地があるということです。
| 調べるもの | 時期の目安 | |
|---|---|---|
| PGT-A | 移植前の胚の 染色体の数 |
胚移植の前 |
| NIPT | 21・18・13 トリソミーの可能性 |
妊娠10週頃以降 |
| 胎児ドック | 心臓・脳・手足など 体のつくり |
初期11〜13週/ 中期18〜22週 |
NIPT(非侵襲性出生前遺伝学的検査)は、お母さんの血液を採って21トリソミー・18トリソミー・13トリソミーの可能性を調べる検査です。お腹に針を刺さないため、検査そのものによる流産のリスクはないとされています。
ただしこの検査には必ず知っておいていただきたい前提があります。
NIPTは「非確定的検査」です
厚生労働省の専門委員会報告書には「NIPTは、非確定的検査であるため、検査結果が陽性であった場合、絨毛検査・羊水検査等の確定的検査を実施する必要がある」と記載されています。
また日本産科婦人科学会は非確定的な出生前遺伝学的検査についても「検査前に遺伝カウンセリングを実施する必要がある」としています。受けるかどうかを決める前の相談もこの遺伝カウンセリングに含まれます。
検査の内容は「NIPTとは?わかること・精度・費用と検査結果の見方」をご覧ください。
染色体ではなく赤ちゃんの体そのものを見る方法もあります。
胎児ドックは超音波で心臓・脳・腎臓・消化管・手足などを時間をかけて確認する検査です。通常の妊婦健診よりも詳しく見ていくため、「赤ちゃんが元気に育っているか」を確かめたいという気持ちに直接こたえてくれる検査でもあります。
初期(11〜13週)ではNT(首の後ろのむくみ)の測定や鼻骨の確認を、中期(18〜22週)では臓器の構造をより詳しく見ていきます。
詳しくは「胎児ドック(エコー検査)とは?」と「胎児ドックは初期と中期、どっちで受けるのがいい?」をご覧ください。
不妊治療の間に情報を集めることが力になってきた方ほど、妊娠後も同じように調べ続けてしまいます。
ただ妊娠後の検索ではつらい経験を書いた投稿のほうが目に入りやすくなります。穏やかに経過した方はわざわざ書き込まないからです。
もし今検索が止まらないと感じたら、こんな方法を試してみてください。
受診のときは次のことを聞いてみてください。
医師以外にも相談できるプロに「認定遺伝カウンセラー」がいます。その役割については「認定遺伝カウンセラーとは?役割やサポート内容を解説」をご覧ください。
体外受精や顕微授精という治療そのものが染色体異常を増やすという確かな根拠は、現時点では報告されていません。治療を選んだご自身をどうか責めないでください。
染色体の数の過不足にもっとも大きく関わるのは卵子が過ごしてきた時間であり、それは誰にも止められないものです。あなたの努力が足りなかったということでは決してありません。
妊娠後に赤ちゃんの状態を知る方法としてNIPTや胎児ドックがあります。受ける権利も受けない権利も、どちらもあなたたちのものです。
一人で検索を続けて眠れない夜が続いているなら、かかりつけの産婦人科や胎児医療を専門とする医療機関、認定遺伝カウンセラーにその気持ちごと相談してみてください。
生まれる前の赤ちゃんを診る「胎児医療」は、日本ではまだ専門家が少ない分野です。
林先生は海外で胎児医療を学び、FMF胎児クリニック東京ベイ幕張を開院。超音波検査や遺伝カウンセリングを通じて、日々胎児の健康を支えています。
FetalHeart(フィータルハート)は、出生前検査や胎児医療に関する正しい情報を、悩むご家族の立場に寄り添って届けるメディアです。皆さんの悩みに寄り添い、選択するお手伝いを少しでもできれば幸いです。